開校してから3年目となる横浜市立南高等学校附属中学校。例年、2年生の生物実験はイカの解剖と決まっているそうです。今回、横浜市立南高等学校・附属中学校同窓会にご縁があり、当協会のイカを教材として提供しました。
同窓会の中に「おさかなマイスターアドバイザー」※1の方がおられ、以前から船上凍結イカの美味しさを周囲に広めくださっていたようです。母校でイカの解剖をしていると知ると「解剖後にはイカを食べさせたい。生物の授業だけれど、同時に食育も学ばせたい。そのためには鮮度のよい船上凍結イカが最適である。さらにイカ釣を含めた日本の漁業の現状を社会科として伝えたいので、是非提供してはくれないか」という熱意あふれるお話をくださり、当協会としては喜んで最高のイカをご用意しました。[写真:1]
実習は2年生の全クラスを一コマずつ、1限から4限で実施しました。手伝いとして参加した同窓会員は計3名。石川会長他2名で実習の補足説明と調理の補助を担当。時間に追われながらも手際よく、疲れを見せることもなく実に楽しそうであったのが印象的でした。休み時間に調理担当の高田副会長にお話を伺うと「自分がこの母校で過ごしたすばらしい時間を、この子たちが同じように過ごせるよう手伝いが出来て本当に楽しい」とおっしゃっていました。
チャイムが鳴り、授業は元気のよい挨拶[写真:2]から始まります。理科担当の蛭田先生から紹介を受けたおさかなマイスターアドバイザーの山形副会長が今回の趣旨説明[写真:3]を行った後、先生からプリント「イカのからだのつくりを観察しよう」の説明と手順の確認がありました。[写真:4]
最後の「実験後には美味しく食べましょう!」で歓声が沸き起こり、実験開始です。
使用する時にちょうど良い固さになるよう事前に流水で解凍しておいたイカが各班に配られます。作業台の上に用意されたシートにイカが乗ったら作業開始。[写真:5]今回の実験手順は下の通り。
最初は気持ち悪がって触れずにいた子たちも「臭くないよ」と触った手を嗅いでみせる子を見て一変。一斉にペタペタと触りだしました。事前に座学の授業で全国いか加工業協同組合様ご提供の「イカ学Q&A50」を参考に手順の説明があったそうで、観察はスムーズに進んで行きます。そして最初の難関「カラストンビの取り外し」に。
口(通称カラストンビ)と言われる上顎板と下顎板の2枚の鋭いくちばしをピンセットを使って引き抜くのですが、かなり力が要るようで、男子でも苦戦を強いられている様子でした。[写真:6]「痛そう」や「壊れちゃう」とビクビクしながらも成し遂げた後は、疲労と達成感が入り交じった表情をしていました。単に解剖というだけでなく、他者の痛みを想像したり力の加減を体で覚えた様子でした。
そして外とう膜を切り開くという「腑分け」の開始です。[写真:7]
それぞれのテーブルで最初に解剖用ハサミを持つ担当を決めています。誰それがやるやらないと軽く揉めた後は、今も昔もジャンケンなんですね。そうして決まった代表1名が、意を決した合図として「それでは手術を始めます」と両手を胸の前に挙げるポーズがあちらこちらで見られました。気分は外科医だったのでしょう。
耳を下、軟骨が無い方を上にして置いたら、腸やスミ袋を破らないように気をつけながらハサミで切っていきます。[写真:8]
中が見えてくると、女子だけでなく男子も一緒になって「うわーっ」「気持ち悪い」と悲鳴をあげます。そんな中「このワタ見てよ、すごく新鮮!
」と言う強者もチラホラ。
内蔵の部位の確認が終わったところで選手交代。醤油が食道を通過していく所を見て、消化管のつながりを観察する準備です。内蔵と外とう膜の結合部分を切り離し、内蔵の裏側にある食道が見える状態にします。その後スポイトを使って醤油を注入するのですが、これまた「無理ーっ」「痛い痛いっ」といった悲鳴が。[写真:9]
きちんと奥までスポイトを差し込まないと、醤油が食道に届かず漏れ出てきます。多くの班でシートが醤油まみれになっていました。力が要るだけでなく、勇気がないと難しいかも。なんとか奥まで差し込むと醤油が勢いよく流れていく様が確認できます。先ほどまでの悲鳴が「わーっ」や「おーっ」という感嘆の声に続々と変わっていきました。
続いて軟骨を抜き取り、最後は眼球からレンズを取り出します。[写真:10]
やはり目を取り出すことに抵抗を感じたようですが、これが終われば食べられる!と、気持ちは茹でイカに向いてはやっているのでなんとかクリア。取り出したレンズを文字の上に置き、文字が拡大されて見えたら解剖は終了です。
中央にイカを置いたシートの端を数人で持ち、特設の調理場へ移動します。
ここでもう一人の理科の先生にもお手伝い頂き、ワタをすべて取ってから可食部分のみを調理してもらいます。[写真:10] [写真:11]
丁度良い具合に茹でられ丁寧に湯切りされてから切り分けられたイカを自席に持ち帰り、さあ実食です!
イカアレルギーの学生が数名。タマゴアレルギーの学生も若干名いましたが、食べられない子を他の子が自発的にフォローする姿がとても好ましかったことを記憶しています。 今回はこの試みに賛同してくださったケンコーマヨネーズ株式会社様からマヨネーズをご提供頂きました。 始めから醤油やマヨネーズを付けて食べる子たちが続出したので、ついつい口を出してしまいました。 「最初は何も付けずに食べてみたら?イカの味がわかるよ。」
余計なお世話と知りつつ、黙ってはいられませんでした。本当に美味しいイカの味を是非とも知ってほしかったのです。結果「これがイカの味なの?美味しい」や「何も付けなくてもこんなに美味しいんだ」と大絶賛して頂きました。[写真:13]
もちろん多少のお世辞は入っているでしょう。それでもやはり嬉しかったですね。他にも「うちで食べているマヨネーズより美味しい」や「イカ料理をもっと食べたい」等、嬉しい意見が続出でした。
1週前の授業で手順等の説明があったということで、全クラスが時間内に解剖と試食を終わらせることができました。学校のルールで生食は控え、今回は衛生・安全面を第一に考え、美味しい部位ではあってもワタやカラストンビ等は破棄しました。もったいないですが生物の授業の枠内にあり、あくまで観察と体験が目的です。しかし家庭でよくイカを食べている一部の学生さんからは「なんでワタを食べないの?」と我々にとっては嬉しい非難?の声があがる一幕もありました。そんな光景を見ていた学校側から後日、この解剖は生物だけでなく食育や社会の科目も同時に教えることができる。次回は「総合学習」としてやってみたらどうかという意見が出たと、同窓会会長の石川氏から教えて頂きました。
消費者の生の声を聞くこうした機会はあまり無く、統計の数字で推し量っていた答えを目の当たりにすることができるなど、大変実りある授業でした。「食べることで生きていく知識を学ぶ」ことが出来る授業の必要性と効果を知ったからには、協会としてなんらかのご協力が今後も出来ればと願っております。
最後になりましたが、関係各所のご好意とご尽力に感謝いたします。